『演歌は不滅だ』を読んでみた


夏休みの読書として、先月出版された
『演歌は不滅だ』(ソニー・マガジンズ新書)を読んでみました。



演歌について、過去のヒット曲が生まれた裏話などを紹介した本はいくつかありますが、
この本は“現在の演歌・歌謡ビジネスの最新状況”に徹して書かれています。
ジェロのヒットや今年4月の歌謡コンサートの放送について言及していたりと
新鮮なネタが多く、今年の5月以降に書かれたことがうかがえます。
演歌がいかに大勢の人に必要とされているか、愛されているかを
あれこれ具体例を挙げて紹介しています。
とかく否定的・悲観的にとらえられがちな演歌について、
ポジティブに語ってくれていて共感できます。(^_^)


J-POPと比較してのシェアの安定度、
演歌関連のテレビ・ラジオ番組の人気、カラオケ団体、レコード店の紹介、
歌手のキャンペーン活動の実態、デビューのきっかけのつかみ方、
カラオケ喫茶・サークルの盛り上がり、P盤歌手の存在などなど。
これだけのことを網羅し、親切に解説してくれている本は極めて珍しいでしょう。


演歌の現場に携わっている様々な関係者が実名で登場しコメントしており、
その人選も非常に的を射ています。


いま演歌ビジネスはこうやって動いているんだ、という
全体像を知るための入門書として最適だと思います。


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ただ、「?」と思うところも多々あります。


編著は「演歌ルネサンスの会」という、実体がよくわからない名前になっています。
ジャーナリストのように客観的な記述に徹しているわけでもないので、読み進めていると
最後の4〜5行で急に主観的な意見に転じて
「えっ? それは違うんじゃないのかな…」と思うことが度々。
その主観的(=熱い)意見も、筆者がどういう立場で演歌に関わっている人なのか
明確であれば、もっと説得力を持ったと思うのですけど。


新書ですから当たり前なのかもしれませんが、
写真やグラフ、図表が一点もなく、100%文字オンリー。
執筆から出版まで時間が少なかったのか、誤植・誤用も散見されます。


最初のほうに、こんな記述があります。
「J-POPのCDシングル売上が下がったことで、相対的に演歌のシェアが伸びている」
「平成19年は特に伸びている」
間違いではないのでしょうけど、これには「千の風になって」の売上も含まれているとのこと。
そこで“「千の風になって」は、新しい形の演歌といえなくもないからいいのだ”というのは
ちょっと都合のよすぎる解釈ではないでしょうか。(^_^;)
どこの調査データの数字をもとにした記述なのか不明ですが、「千の風」が含まれているのなら
「吾亦紅」、さらには関ジャニ∞も含まれている可能性があります。
これらを除外した場合の演歌・歌謡曲のCD売上シェアは、いったいどれくらいなのでしょうか?


途中、小西良太郎氏へのインタビューが28ページも占めています。
つまり他人の口から語らせているわけで、ちょっとガッカリ。
小西氏の口から悲観的なことばかり出てきて、聞き手(この本の筆者)が
思わず「弱ったな」と漏らす場面には、こちらが苦笑してしまいました。(^_^;)


最後の最後も、ちょっと無理があるのでは…と思う結論で締められています。


せっかく、きちんとした取材にもとづく現場の実態、関係者の証言、
視聴率や売上データなど、具体的な事例を出して
演歌についてすごくポジティブなことを書いているにもかかわらず、所々
まとめ方が少々こじつけに思えてしまうところが気になり、勿体ないなと感じます。


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…と、ついつい厳しい目で見てしまいましたが、(^_^;)
最初に述べたように、現在の演歌ビジネスがどのように動いているかを
知るための本としては最適であり、且つおそらく唯一の本です。
何より、演歌を応援したい!演歌の実態を正しく知ってもらいたい!という気持ちで
こういった本にまとめてくれたことが大変うれしく、敬意を表します。
演歌ファンの方々にとっても、知っているようで知らないことも多いと思われますので、
ぜひ一度目を通してみてはいかがでしょうか。


 『演歌は不滅だ』演歌ルネサンスの会編 (ソニー・マガジンズ新書